605トマス・ホッブズ著(水田洋編訳・解説)『ホッブズの弁明/異端』

書誌情報:未來社,141頁,本体価格1,800円,2011年6月10日発行

ホッブズの弁明/異端 (転換期を読む)

ホッブズの弁明/異端 (転換期を読む)

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編訳・解説者は昨日まで松山にいらっしゃった(関連エントリー参照。5月29日には名古屋に帰られる予定が伸びた。濃密な10日間はそのうちエントリーの話題にするつもりである)。入れ違いに届いたのがホッブズの本書だった。
「トマス・ホッブズの弁明」(本訳書の「弁明」)と「異端についての歴史的説明と,それについての処罰」(本訳書の「異端」)は絶対主権とイギリス革命渦中のホッブズ自身の身の処し方,ホッブズの神学論争への無関心をそれぞれ表明したものだ。ある学識者にあてた手紙のかたちをとって出版社クルックが紹介し(Considerrations upon the reputation, loyalty, manners, & religion, of Thomas Hobbes of Malmesbury, written by himself, by way of letter to a learned person London, William Crook, 1680. [5], p.3-63.,異端論争史を扱った古本版(An historical narration concerning heresie, and the punishment thereof, By Thomas Hobbes of Malmesbury. London: printed in the year 1680.から翻訳している。
いずれもホッブズ(1588-1679)の死後(1680)出版されたもので,革命的騒乱のなかで生きたホッブズの生存証明を主張する立論である。
水田が所蔵していた典拠本(名古屋大学付属図書館水田文庫として利用可能予定)により,かつ水田の研究史的回顧(ホッブズとスミス)を横溢させた解説は,ネオコンによるホッブズの「復権」とサンデル「正義論」によるホッブズ再定置以上に,日本的ホッブズ紹介・解釈として特徴的である。主著『リヴァイアサン』(1651)での自然権としての生存権の主張と自然権の停止または譲渡による社会契約としての絶対権力の設定を前提とした「弁明」と「異端」であるだけに,凝縮されたホッブズの主張が読み取れる。同時にスミスのホッブズ理論の継承(戦争状態の平和的共存への転形や言語起源論)も明確な輪郭をもって理解することができる。
神の自然法と人類の自然状態としての戦争状態。キリスト教世界のみならず個人が主役たりえるかの問題を有する非キリスト教世界はホッブズの思想圏の範囲に入る。