604雫井脩介著『クローズド・ノート』

書誌情報:角川文庫(し-37-1),444頁,本体価格667円,2008年6月25日発行

クローズド・ノート (角川文庫)

クローズド・ノート (角川文庫)

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主人公・堀井香恵は教育大学在学中である。自室に残されていたノートに書かれていた小学校教師の文章と現実が交錯する。作者が経験した実話をモチーフにしたノートに綴られた子どもたちとの交流を主旋律にしながら,ノートの持ち主と駆け出しのイラストレーターと香恵,さらにはイラストレーターとその後援者の女性と香恵,二重の三角関係が展開する。煮え切らないイラストレーターがキーパーソンだ。
香恵のアルバイト先である文具店での万年筆問答が彩りを添えている。デルタ・ドルチェビータ・ミニ,同オールドナポリモンブラン・マイスターシュテュック149,同スターウォーカー,カルティエディアボロウォーターマン・カレン,同リエゾン,パーカー・デュオフォールド,同ソネットアウロラ・ミニ・オプティマペリカン・スーベレーン400(青縞),同スプリット・ガウディ,同トレド,カランダッシュ・メットウッド,ビスコンティ・ヴァン・ゴッホ,スティピュラ・イ・カストーニM,ラミー2000,アウロラ・アスティル,クロス・ヴァーブ,デュポン・フィデリオなどなど万年筆ファンなら涎が出てくる。
大学入学祝いのプレゼント経験があったとしても香恵の万年筆知識のオンパレードは唐突感を否めない。文具店の看板娘・今井可奈子に語らせる「人類は道具を使うことによって進化したのよ。それへのこだわりがなくなったら人類じゃないわよ」(96ページ)は妙に納得した。
自分の両親を日記でも第三者を前にしても「お父さん」「お母さん」と言う。若者感覚をそのまま小説に織り込んだとしたのならば,作者の若者観察力はとても鋭い。