613二宮厚美・田中章史著『福祉国家型地方自治と公務労働』

書誌情報:大月書店,284頁,本体価格2,200円,2011年7月8日

福祉国家型地方自治と公務労働

福祉国家型地方自治と公務労働

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「太陽が昇れば月が沈むように,地方分権の日が昇ると,福祉国家の日は陰る。分権のサンライズ福祉国家のサンセットである」(229ページ)。歳入の中央集中と歳出の地方分散とを集権か分権かととらえるのではなく,官僚機構と公務労働の視点から再評価すること。60年代後半からの公務労働論をふまえ,これからの地方自治(=福祉国家地方自治)を展望しようという本書の特徴はここにある。
新しい公共概念は鳩山政権期に登場していた。それは,複数の主体が協働してつくりだす公共空間であり,かつての公務労働の場を協働の場に替えることを意味した。地方自治体は公共団体としてよりは地域経営体の役割を期待され,より効率的な行政を実現しなければならなくなる。それを支えるのが民主党政権の分権化路線である地域主権戦略である。
著者たちは,保育・教育・福祉・医療・介護・労働・環境保全などの社会権に属する領域は国家が第一義的義務を負うとし,ナショナル・ミニマム保障の意義を強調する。福祉国家的公共圏は国家的責任および全国的財政調整と地方自治に担われざるをえない。そのうえで,公務労働の領域を,物質的生産(公共事業,上下水道,住宅・環境・衛生・公園整備,公害防止,清掃・廃棄物処理,防災・防火,土地・街路・橋梁整備など),社会サービス(保育・保健・教育・医療・福祉・介護など),情報関係(研究・調査・統計・企画・立案・広報・法務・司書・文化など)に対応させ,市場労働化にもっともふさわしくない専門的判断を必要とする労働とする。住民と一緒になること(階級性),公共性の担い手になること(公共性),専門性によって地域住民の信頼を得ること(専門性)が公務労働を規定することになる。
本書は「3.11」以前に書き終えられており,「3.11」を意識していたわけではない。コミュニティ自治を出発点にすべきことと国・自治体の公共部門における公的責任を強調するのは「3.11」の前と後でも不変だろう。