一昨日,山下著『核の海の証言――ビキニ事件は終わらない――』を紹介したのは理由がある。前日の日経新聞(2月24日付社会面)に「ビキニの教訓伝える責任」の記事があったからである。3月1日のビキニデーを前にして,第5福竜丸の元乗組員が病床から復帰して被曝証言を再開し,地道に重ねてきた証言活動が約800回になっていることを報じていた。ビキニ事件の年に生まれた首相らが平和憲法を変えようとしている危機感があること,第5福竜丸展示館の来館者が500万人を超えたことも伝え日経としては骨のある記事になっていた。
ビキニ事件の解説では第5福竜丸の乗組員23人が被曝し半年後に久保山愛吉さんが死亡したことと同時にマグロの相次ぐ廃棄で反核世論が高まったこと,慰謝料200万ドルの支払いで「政治決着」したことを手短にまとめていた。
引っかかったのは,「高知など他県の漁船も多数被曝したが,実態は未解明」としていること。山下著の文献にあるように第5福竜丸以外の被曝の実態について「も」,完全解明とまではいわないが,「未解明」にさせられた背景も含めて明らかになっている。善意のビキニ事件記事は結果的には読者をミスリードするものになっているといわざるをえない。紹介した映画や最新の山下本を知っていたならば「未解明」などと書けなかったはずだ。
第5福竜丸元乗組員の病と高齢をおしての証言活動は貴重だ。だが,第5福竜丸だけに事件の焦点を当て,その他の「実態は未解明」とする思考停止は「政治決着」の思う壺にはまってしまった。
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