811山下正寿著『核の海の証言――ビキニ事件は終わらない――』

書誌情報:新日本出版社,245頁,本体価格1,800円,2012年9月25日発行

核の海の証言―ビキニ事件は終わらない

核の海の証言―ビキニ事件は終わらない

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あのビキニ事件は第5福竜丸事件だけではない。のべ1000隻が被災し(実数約550隻),のべ約2万人(実数約1万人)の漁船員が被災していた。しかし,第5福竜丸乗組員だけにしぼって慰謝料が支払われ,それ以外の被災漁船にたいしては漁協を通じて「慰謝金」200万ドル(7億2千万円)が支払われて「政治決着」したのだった。
アメリカが「200万ドルの金額を,法律上の責任の問題と関係なく,慰謝料として」支払い,日本は「日本国並びにその国民及び法人が前記の原子核実験から生じた身体又は財産上のすべての傷害,損失又は損害についてアメリカ合衆国又はその機関,国民若しくは法人に対して有するすべての請求に対する完全な解決として,受諾」した(1955年1月4日付日米交換文書,172-3ページから再引用)。これでビキニ事件は「終結」したのだ。
その後原爆医療法制化は広島・長崎の被爆者に限定され,第5福竜丸乗組員はじめビキニ被災乗組員は被爆医療法外に置かれることになった。
関連エントリーで触れた映画の前に上梓された本書は,ビキニ事件に高校生とともに関わってきた著者によるこの事件に言及したビキニ事件記録集である。汚染の規模や海洋汚染の長期化,さらには健康被害を考えると,あらためてビキニ事件の大きさと政治の駆け引きに驚く。高知県にビキニ被災船員の会が結成されたのは事件後34年経ってからである。
「ビキニ事件を解明すれば,原発事故のこれからを見通し,同じ道を歩まないための覚悟ができる」(241ページ)。ビキニ事件から見えてくる構図は,「フクシマ」と「福島」に繋がっている。