1014出光佐三著『マルクスが日本に生まれていたら〈新版〉』

書誌情報:春秋社,9+214頁,本体価格1,600円,2013年7月20日発行

マルクスが日本に生まれていたら

マルクスが日本に生まれていたら

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出光興産の創業者・出光佐三(1885-1981)――「本屋大賞2013」を受賞した百田尚樹著『海賊とよばれた男』(講談社文庫(上)[isbn:9784062778299],同(下)[isbn:9784062778305])の主人公・国岡鐵造のモデル――が80歳を越えてからマルクスを研究した。その成果を社長室メンバーの質問に答える形でまとめたのが旧版(1966年)である。百田書によって知られることになって刊行したのがこの〈新版〉である。
マルクスが突きつけた資本主義のもつ問題を受けとめ,出光の経営理念に生かすという問題意識に貫かれている。人類の平和と福祉の社会実現という目標はマルクスと出光は共有するとしながら,家族,民族,搾取,失業,労働組合,宗教などにおいてマルクスの思想を出光なりの咀嚼を加えている。出光のマルクス観はおそらくマルクス理解としては当たっているとはいえないが,マルクスの問題提起を経営者としての鋭敏な感覚で受けとめたものだ。西欧的背景のマルクスと日本的土壌の特色とを対照させ,大家族主義・互譲互助・和の道を強調したものになっている。
「日本にエネルギーを」という出光興産のテレビCMを援用すれば,「日本にマルクスを」ではなく「日本に大家族主義を」が出光のマルクス研究の結論である。