1065安達正勝著『マリー・アントワネット――フランス革命と対決した王妃――』

書誌情報:中公新書(2286),vii+259頁,本体価格880円,2014年9月25日発行

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革命当初は「国民,国王,国法!」のスローガンが打倒すべき王政に転化したのはなぜか。その主人公を演じた王妃マリー-アントワネット(本書ではマリー・アントワネットで統一)の生涯に焦点をあてた「歴史探偵」描写は,事実をふまえた物語になっている。
ルイ十六世は狩猟と錠前作りに明け暮れたわけでなく「マリー・アントワネットの自尊心を満たしたうえで,重要な政策にはいっさい関わらせないようにする」(60ページ)したたかな王であったこと,ルイ十六世とマリー・アントワネットがブレーンとしたのが「革命に依拠した上での王権強化」(ミラーボー)ではなく,「革命を否定した上での王権強化」(ブルトゥイユとフェルセン)だったこと――「フェルセンは悪しき助言者だった」(170ページ)――ことなどがきっちり押さえ,最後まで王妃たろうとしたマリー・アントワネットの栄光と悲劇の生涯がなんとも切ない。
王家の国から国民の国へと転換点にいた王妃の個人史から大きく揺れ動く社会の胎動が伝わってくる。マリー・アントワネットの略年譜以外の資料を一切省き,自家薬籠中にした史実を表出させていたのが印象的だった。