491佐藤賢一著『フランス革命の肖像』

書誌情報:集英社新書ヴィジュアル版(018V),172頁,本体価格1,000円,2010年5月19日発行

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1770年代のルイ16世の時代から19世紀の初めのナポレオンの皇帝までフランス革命の進行に合わせながら,足跡を残した有名無名の80点ほどの肖像画を読み解いている。
ルイ16世財政再建を託されたネッケルは「さすが成功した実業家だけに下ぶくれの福相ではあるのだが,どこか軽薄そうな印象を覚えてしまう」(19〜22ページ)。フランス革命の思想を準備したルソーは「男らしくも太い眉毛,まっすぐ縦に走る鼻梁,しっかりした顎の造りなどを見ると,噂通りの頑固が容貌にも出ている。瞳は強い光を放ち,さすがの才気を裏付けているようだが,それでいて肖像によっては,どこか虚ろにも,あるいは左右の目の焦点が微妙に合っていないようにもみえる。ともすると,こちらの心に不安さえ忍ばせる不可解な印象は,単なる頑固に留まらない,天才と狂気の表象と取るべきか」(26〜28ページ)。史実を追い,革命に直接間接に関係した人物の肖像の印象を絡ませたいままでにないフランス革命論だ。
ミラボーは「いくらか目尻が下がりながら,瞳に尽きせぬ力を漲らせる双眼。やや鍵なりの形ながら,しっかり縦に筋が通った鼻。おまけに分厚い唇に大きな口。(以下略)」(34ページ)。ロベスピエール評は著者の小説で繰り返される特徴を滲ませている。「肖像画に感じられる一種の可愛らしさ,裏腹に恐怖誠意に発揮された攻撃性,それら相反する人格を同時に説明するキーワードこそ,童貞という成人男性としては珍しい状態だったかもしれない」(126ページ)。
「顔ばかりは嘘をつけない」(「おわりに」)。西洋史学者を志した小説家の志向と嗜好が醸し出す味がユニークだ。