349ジェイムズ・バカン著(山岡洋一訳)『真説 アダム・スミス――その生涯と思想をたどる――』

書誌情報:日経BP社,229頁,本体価格1,800円,2009年6月29日発行

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スミスを偏見(「経済学者による神秘化」と「政治家による単純化」)から解き放し,現代的な経済もない,経済学もない,ましてや資本主義という考え方もない時代に即して読もうという問題提起の書物である。一次資料による交友関係の機微と生涯にわたる道徳哲学を基礎にした経済学の構想を追う。同時に,模倣芸術論や時論への関心を扱うことで,「見えざる手」や自由放任の主張者=スミスという呪縛を解こうというわけだ。
「宮廷や応接室の様子を分析した」(127ページ)『道徳感情論』と「読者を野外に連れ出す本」(同)『国富論』が中心になっているとはいえ,前者を経済学の読み物として再読できるとする問題意識が著者にはある。
心気症,孤独癖というこれまで知られたスミス像だけでなく,杖を肩にかついで歩く生身のスミスをも描くことで,商業社会(スミスは資本主義社会を,だれもが商人としてふるまうことができる社会として見た)における原動力とは個々人の利己的活動にとどまらず感情(同感)であるという著者のスミス像も見えてくる。
スミスの経済学と人間学の関係を中心にした堂目の解説は,人間の顔をした経済学の必要性を展望している。本書の「思想的評伝」(堂目)の意図とはかならずしも一致はしていない。本書の提起したスミス論の受容とみることができよう。