618星野彰男著『アダム・スミスの経済理論』

書誌情報:関東学院大学出版会,xi+217+13頁,本体価格2,400円,2010年10月24日

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価値論抜き現代経済学の「見えざる手」理解とマルクスによる「曲解」を排して,スミス労働価値論の復位を企図した書物である。とくに,リカードウとマルクスによるスミス固有の付加価値論パラダイム(bestowed概念)の振替と誤解への批判が中心論点である。労働が原料に投下されることによって原料の価値に新たな価値を付加し,その付加価値部分が賃金と利潤に分解するという理解がそれであり,資本蓄積論の要をなす生産的労働論,資本投下順序論,重商主義批判論,財政論にも貫徹しているという。
「スミスの人間・社会観の方が,労働搾取論=社会主義説よりも説得力=信憑性を有していたのではないか」(126ページ)として,一方でのマルクス搾取論と他方における反動としての効用価値説や生産費説を配置したスミス労働価値論黙殺・封印からの解放を主張している。マルクスに即せば,ここでいう付加価値論パラダイム(不変資本の再生産論,「スミスのドグマ」論)は最後の最後までマルクスを悩ました難問だった。『資本論』第1巻の刊行を準備しながら,膨大なノートの主題となっていたのはまさにこの問題だった。
労働の二重性論の発見と労働過程・価値形成過程・価値増殖過程論,未完に終わった再生産論の試行錯誤はスミス付加価値論との格闘そのものだった。評者には,搾取論と資本主義変革・社会主義論とを結びつけるあまり,スミス理論に留まれと主張しているかのように思える。