朝日新聞社の英語ニュースでこんな話題があった(引用は朝日新聞2015年12月20日付)。「茅ぶき屋根,わらぶき屋根」を 'thatched roof' ということに焦点を合わせた例文だ。白川郷など「合掌造り集落」が世界遺産に登録されて20周年を迎えたことを報じた英文記事からである。
The Shirakawa-go district is known for its A-frame houses, built with beams assembled to form a steep thatched roof.
白川郷地区は,茅ぶき屋根を急角度に組み合わせた合掌造りの家屋で知られる。
'A-frame house' とは「合掌造りの家屋」で,2枚の大きな屋根をA字形に組み合わせた家屋のことである。この A-frame house で思い出したのがアダム・スミス『国富論』中の 'A House' である。
In some parts even of the British dominations what is called A House, may be built by one day's labour of one man. (キャナン版,I. p.164)
『国富論』翻訳の歴史のなかでひとつの論点になったのがこの 'A House' の意味である。「「一戸の家」」(大内・松川訳),「A型家屋」(水田訳),「「家」」(竹内訳),「「家」」(大河内監訳)とどんな家なのかがわかるのは水田訳だけで,ほかは 'A House' になっていることから「」をつけていた。
評者は水田訳の「A型家屋」も変な家だなと思ってきたのだったが,要は合掌造りのように屋根がA型になっている家と理解すればいいとあらためて気がついた。エディンバラにあるスミスの旧居は石造りながら屋根はA型になっていたようだ(写真でしか見ていない)。文中には「イギリスの」とあるから,スコットランドも含めてブリテン島ではごく普通にあった家と言えそうだ。またスミスがなんの注釈も加えず使っていることから,当時としては建物を指す普通の言い方だったかもしれない。
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