1107ニコラス・フィリップソン著(永井大輔訳)『アダム・スミスとその時代』

書誌情報:白水社,379+39頁,本体価格2,800円,2014年7月15日発行

アダム・スミスとその時代

アダム・スミスとその時代

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スミスは人間の本性と歴史を観察することから人間学を構想していた。人間の本性に利己心を据えそれと社会との関係を論じたのが『道徳感情論』であり,彼の構想の第一部にあたる。『国富論』は国民の富と自由と幸福を増大させるにあたって市民社会が直面する問題を分析したものであり,人間学構想の第二部にあたる。「文芸のそれぞれの部門である哲学・詩・修辞に関する一種の哲学的歴史」と「法と統治に関する理論と歴史」は未完に終わった。
スミスは遺言で講義録のすべての破棄と手稿類の処理(死後に小論7本が出版)をふたりの遺言執行人に依頼した。このためスミス評伝の資料は,出版本2冊,スミスの書いた書簡(スミスが書いた193通と彼宛の書簡129通),学生の講義ノート(法学講義と修辞学講義)にかぎられる。著者はこの制約をつぎのように「思想の伝記」と描くことで突破しようとした。「スミスに関する一次資料の大部分は発表・未発表を問わず本人のテクストのなかに存在するのだから,スミスの伝記は何よりもまず思想の伝記として,テクストが生み出される過程から著者の精神と人格の足跡を辿り,独自の啓蒙のあり方を生み出しているとある国を舞台とした,そんな伝記」(23ページ)である。
当然のことながらヒュームやスコットランド啓蒙がスミス「思想」の骨格と肉付けに果たした役割が前面に出てくるスミス伝になっている。人間学の構想が宗教批判を土台にしていたことを看取できる。