626桐山勝著『万年筆国産化100年――セーラー万年筆とその仲間たち――』

書誌情報:三五館,254頁,本体価格1,600円,2011年3月3日発行

万年筆国産化一〇〇年―セーラー万年筆とその仲間たち

万年筆国産化一〇〇年―セーラー万年筆とその仲間たち

  • 作者:桐山 勝
  • 発売日: 2011/02/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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2011年は,万年筆の金ペン先や軸などすべての部品を自前で調達するようになってちょうど100年。「万年筆国産化100年」である。日本の三大万年筆メーカーであるセーラー万年筆が1911年,パイロットコーポレーションが1918年,プラチナ萬年筆が1919年の創業である。セーラー創業前後にはスワン,オリバー,サンエスといったメーカーもあったそうだ。
洞爺湖サミット(2008年)のとき有田焼万年筆(キャップ・胴軸:香蘭社,ペン先:セーラー)が記念品として出席者に贈られたことについては以前触れた(関連エントリー参照)。万年筆は重要な国際条約などの調印式で重用される。これについても蘊蓄が傾けられてある。日露戦争後のポーツマス条約(1905年)と第一次世界大戦後のベルサイユ条約(1919年)ではウォーターマンロンドン軍縮会議(1930年)ではダンヒツ・ナミキ,沖縄返還協定(1971年)と日中国交回復(1972年)ではパイロット・カスタム,第二次世界大戦集結の文書(アイゼンハワーマッカーサーが署名に使用)ではパーカー・デュオフォールド(ビッグレッド),サンフランシスコ条約(1951年)とローマカトリック教会英国国教会との関係修復の文書調印(1983年)ではシェーファー,がそれぞれ使われた。
万年筆の試し書きには「永」の字がつきものである。この「永」は「はね,止め,払い」というペン先の三要素がすべて入っているのだそうだ――チョン,まず横へ,次いで縦に下りて,左へ跳ね,左から右へ入って左下へ跳ねる,右から左へ入って今度は左から右へ抜く。
本書は,老舗のセーラーを中心に歴史を辿り,万年筆趣味本兼万年筆を素材にしたビジネス本を企図したものだ。条約調印時の万年筆と「永字八法」を知ったし,万年筆万華鏡として楽しく読むことができた。