書誌情報:東京大学出版会,ix+272頁,本体価格2,800円,2012年4月27日発行
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個人に注目した学習観として行動主義学習観と認知主義学習観がある。前者は「お勉強」やドリル学習を,後者は知識の獲得をそれぞれ思い浮かべることができる。われわれにとってもっともなじみのある学校教育の学習観であり,学校教育を支えてきた学習観である。これにたいし,ワークショップに代表される社会構成主義学習観は知識の獲得を目的とするのではなく,他者と知識を分かち合う状況を学習と捉える。「学びの共同体論」(佐藤学)や「状況論的学習観」(佐伯胖)がそれであり,「何のために,なぜやるのかという目的とそのプロセスを共有し,多様なズレや行き違いが生まれていることを重要な結節点としてとらえ,それらの問題を解決していくことを通して,合意を形成し,より納得できる取り組みが生まれていくこと」(苅宿,80ページ)である。
ワークショップを学習としてとらえ,「まなびほぐし」を通して実践することに核心を見いだしている。ここでいう「まなびほぐし」とは,ヘレン・ケラーが鶴見俊輔に言ったことば――「私は大学でたくさんのことをまなんだが,そのあとたくさん,まなびほぐさなければならなかった」の「まなびほぐす」 unlearn ――であり,型どおりのセーターを編んだ後,ほどいて元の毛糸にもどして今度は自分の体に合わせて編みなおすことだ。ワークショップは「まなびほぐす」ことにほかならないというわけだ。ワークショップは万能ではない。双方向性や協同性などワークショップの特性もさることながら,ワークショップに向かない目的やワークショップのデメリットもある。
「まなびほぐし」としてのワークショップは学習論としてだけでなく,公共性を考える装置としてその可能性を探る。「まなびほぐし」・ワークショップ・公共性という一連の繋がりに「まなび学」という新しい学習論を提起している。
やらされるワークショップからワークショップを解放し,ワークショップの新しい意味づけを知る好著である。
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