915ジリアン・ネイラー著(川端康雄・菅靖子訳)『アーツ・アンド・クラフツ運動』

書誌情報:みすず書房,340+viii頁,本体価格4,800円,2013年6月10日発行

アーツ・アンド・クラフツ運動

アーツ・アンド・クラフツ運動

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デザイン史の古典的著作である Gillian Naylor, The Arts and Crafts Movement: A Study of Its Sources, Ideas and Influence on Design Theory, 2nd edition; 1990 (1st edition; 1971). の翻訳である。
ラスキンやモリスの思想と実践をもとに19世紀後半にイギリスで始まったアーツ・アンド・クラフツ運動は,日本では柳宗悦民芸運動に大きな影響を与えた。本格化する運動の前史にさかのぼりラスキンやモリスと政府の産業振興策とのせめぎ合いに触れており,工業デザインへの見取り図を描きえなかった時代制約性を指摘している。また,さまざまな協会やギルドのなかに運動の果実を具体的に検証している。
アーツ・アンド・クラフツ運動はイギリスで閉じられることなく,その後の欧米(アール・ヌーヴォーバウハウス,ライトの建築理念など)や20世紀前半での北欧デザインに結びつく。デザインの「根深い島国根性」から「技術を人間らしく用いること,そしてその成果を社会に役立てること」(261ページ)への展開は,アーツ・アンド・クラフツ運動の現代性を物語っていた。
101の図版(原著では12点がカラー)を収録しており,芸術運動の具体的成果物を確認できる。もし,今年度後学期の文化経済学の前に本書を読んでいれば,さらにいい(?)講義になっていただろうに。