1062前川玲子著『亡命知識人たちのアメリカ』

書誌情報:世界思想社,vi+322+89頁,本体価格4,600円,2014年5月10日発行

亡命知識人たちのアメリカ

亡命知識人たちのアメリカ

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1933年から第二次世界大戦末期の44年までの間にナチスファシズムから逃れてアメリカに入国したヨーロッパからの難民は24万人とも32万人ともされる。そのうちいわゆる「亡命知識人」は多く見積もっても一割弱と推測されている。本書は33年(ナチスの権力掌握・ローズヴェルト就任の年)から70年代初頭(アメリカのカンボジア侵攻)を対象に,ドイツ出身の亡命知識人がアメリカの政治的・社会的状況によって複雑に影響を受け,彼らが持っていたラディカル性がアメリカで一定受容され影響をもつことになったことを描く。
アメリカにおける援助団体,財団,大学などの受け入れ体制とニュー・スクール・フォア・ソーシャル・リサーチ内にあった「亡命大学」を総論的に扱ったうえで,亡命知識人のうちからパウルティリッヒ,ハンス・シュパイヤー,ベルトルト・ブレヒトハンナ・アーレント,ヘルベルト・マルクーゼらの軌跡を追う。またノースカロライナ州にあったブラック・マウンテン・カレッジにおける絵画・音楽・リベラル・アーツなどを通した教育的実験への参画と民主的ドイツ推進協議会をめぐる「政治的迷路」によって多様な亡命知識人群像が浮かび上がっていた。
亡命知識人は「過去と現在という二つの時間,二つの空間を同時に生きながら,どちらにも属さずに,まさに境界線上で生きていた」(317ページ)。亡命知識人をとおしたアメリカ論とも読むことができた。