1634遠藤健著『大学進学にともなう地域移動——マクロ・ミクロデータによる実証的検証——』

書誌情報:東信堂,230頁,本体価格3,600円,2022年2月15日発行

文科省の毎年度調査『学校基本調査』からは大学進学時の移動先(都道府県別)がわかる。著者はさらに,進学移動の先行研究の検討,高卒就職・進学移動の時系列分析,首都圏の大学立地,進学移動距離,国立大学における大学進学にともなう地域移動に加え,出身地である福島県の進学移動のミクロデータ分析などを加え,大学進学にともなう地域移動を論じている。
本書によって得た知見がある。東京一極集中と地方の疲弊が喧伝されたが,地方からの転入増ではなく,おもに関東圏内の転入増によって生じていたことをデータにもとづいて指摘している。また,福島県のミクロ分析から,進学時の移動において一部の親移動経験と地域移動先における個人・集団レベルの先行者(とくに兄姉)の有無が大きかったことを導くと同時に,学力が高い生徒は総じて県外に進学を希望する傾向があったが,Uターンを想定する層と学力の高低は無関係であったことを論証している。大学進学時においては地域や学校という集団単位だけでなく家族という個人単位によって規定されていることを見て取っている。
国立大学への進学においても重要な指摘があった。「多様な教育機会を全国的に供給しているとともに,偏差値による選抜が機能しているゆえ,よりレベルの高い国立大学へ移動するメリトクラシ的な地域移動が生じている」(171ページ)。
大学進学にともなう地域移動論は高等教育論だけでなく地域政策論とも重なっており,本書の内容はそれらに関心を持つ読者の期待を裏切らない。