1682五味文彦著『疫病の社会史』

書誌情報:KADOKAWA,111頁,本体価格2,800円,2022年10月25日発行

疾病の歴史年表,疾病の症状,関連文献を集積した富士川游著『日本疾病史』をふまえ,文献だけでなく絵画や民俗事例をもとに描いた疾病の社会史である。
古代から現代にいたる10の時代(古代社会,中世社会,武家政権南北朝・室町期,戦国期,近世,近世後期,幕末期,文明,環境の時代)における疾病と社会の相関がよくわかり,神殿の建立や疫神の祀り,御霊会などの神頼みの実際を知ることができる。
「A」と「B」の会話からなる工夫があり,歴史書の難解さを和らげている。
1879(明治12)年のコレラは松山発とあった(96ページ)。高浜虚子の「コレラの家を出し人こちへ来りけり」がコレラの俳句のひとつとして紹介されている(108ページ)。もっとも虚子の句は『五百句』(1914[大正3]年7月5日の虚子庵での句会か)のもので時代は異なる。ちなみに,コレラは晩夏の季語だそうである。
近代における天然痘コレラ,腸チフス,ペスト,スペイン風邪など疫病から自由になっていない歴史がすぐそばにあった。
会津地方の「赤べこ」は1508(正徳3)年に会津地方で天然痘が蔓延した際に子どもが罹らないように祈願して作られたという(同上)。
評者が小学校低学年時代に経験した頭髪へのノミ・シラミ対策のためというDDT(DichloroDiphenylTrichloroethane)噴射は,効果以上に人体への悪影響が後で判明した(著者の経験を述懐している。107ページ)。