737マイケル・サンデル著(鬼澤忍訳)『それをお金で買いますか――市場主義の限界――』

書誌情報:早川書房,329頁,本体価格2,095円,2012年5月15日発行

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「いまや,ほとんどあらゆるものが売りに出されている」(11ページ)。商品世界が世の中を覆い尽くすという発見はサンデルを待つまでもなく,資本主義を批判的に見た多くの先人による。サンデルは身近な商品化したモノを取り上げ,「商品になると腐敗したり堕落したりするものがある」(22ページ)ことを繰り返す。商品化することで公正と腐敗をもたらす過度の市場化に歯止めをかけるためには,効率性・合理性とは別の「善」・「善き生」・「道徳」を考えなければならない。くどいほど具体例を挙げ,市場の限界を論じているのが本書である。
刑務所の独房の格上げ,相乗り車線を利用できる権利,代理母,移住権,クロサイを撃つ権利,コンシェルジュ・ドクター,炭素排出市場,名門大学への入学権,肉体広告,人間モルモット,民間軍事会社の「兵士」,行列代行,読書奨励金,減量報奨金,生命保険の売買など何でも売り物社会の現実を登場させ,お金では買えない「道徳的・市民的善」を喚起している。論理的展開よりも同じ論点を執拗に追究することで市場主義と主流派経済学の限界を指摘する。
WHAT MONEY CAN'T BUY: The Moral Limits of Markets が原題。政治哲学の処方箋は経済学方法論批判とも結節している。