763倉部史記著『看板学部と看板倒れ学部――大学教育は玉石混淆――』

書誌情報:中公新書ラクレ(422),230頁,本体価格780円,2012年7月10日発行

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ちょうど司法試験の結果が出たところだ(「法科大学院等別資料」→http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00075.html)。200名を超える合格者を出すロースクール(中央,東京,慶應義塾,早稲田,京都の各大学が3桁)もあればなんとか数名のところまでと(ゼロ1,1名1,2名3,3名4,4名5),二極化は確実に進んでいる。日本で一番名前が長く,日本で唯一の連合方式で,かつ四国で唯一のロースクール・「国立大学法人香川大学大学院香川大学愛媛大学連合法務研究科」(→http://www.ls.kagawa-u.ac.jp/)からの合格者は昨年と同じ2名にとどまった。これまでの合格者数は3→3→3→10→2→2と推移している。厳しい状況は続く。
本書は看板学部から見た大学事情であり,大学広報の差別化と高校生への進路指導の充実を提言している。タイトルは刺激的だが,内容はいたってまともである。現在大学の学部の名称数は514種類(1大学だけのものが284学部)にのぼり,学士の種類も670種類以上である(2012年5月現在)。「学びたい学部・学科・コースがある」が進路と大学選択の一番に挙げられる。でも「多くの高校生は,自分が何をやりたいのかを十分に考えることなく,学校が予定したスケジュールに沿って簡単に,安易に進路を決めてしまってい」(189ページ)る。大学からは教育や研究の中味を他大学と差別化した情報として提供すべきという提起はこの事実認識からである。資格を売りにした大学・学部選択にも警鐘を鳴らす。「資格に依存した働き方には,社会制度の変化や需要供給の崩壊によって,あっけなくバランスを崩してしまう不安定な一面もあ」(210ページ)るからである。司法試験合格=法曹資格の入口はかつてほどの給与とステイタスを保証しないごとくである。
進路や大学・学部選択までにさまざまな学問に触れる。そうか,本書は高校生とその保護者,高校の進路指導の教員に読んで欲しい本だった。