592島野清志著『危ない大学・消える大学 2012年版』,木村誠著『消える大学 生き残る大学』

書誌情報:エール出版社,191頁,本体価格1,500円,2011年4月1日発行

危ない大学・消える大学 2012年版 (YELL books)

危ない大学・消える大学 2012年版 (YELL books)

  • 作者:島野 清志
  • 発売日: 2011/03/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
書誌情報:朝日新書(290),229頁,本体価格740円,2011年4月30日発行
消える大学 生き残る大学 (朝日新書)

消える大学 生き残る大学 (朝日新書)

  • 作者:木村 誠
  • 発売日: 2011/04/13
  • メディア: 新書

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かたや「入学するだけの価値のない大学,反対に価値のある大学を選択するためのテキスト」(島野本)を謳い,かたや「現代の大学がサバイバルに必死になっている実態にアプローチ」(木村本)を謳っている。島野本は第17作というから木村本がそれを知りつつあえて出したということだろう。
大学の破綻,定員割れ,ボーダーフリー,Nグループ(総定員充足率が特に低い大学のこと)など実名を挙げ「ブラック大学」を徹底してたたくのか,生き残りをかけた大学の取組を追い大学のあり方を問うのかという違いはあれ,今を大学淘汰の時代として描きまちがいのない大学選びを勧めている点では共通している。
島野本は,私立大学への補助金(私立大学経常費補助金)が「打ち出の小槌」(17ページ)・「低レベル大学にとって干天の慈雨」(31ページ)になっており,淘汰されてしかるべき大学を延命させているという。研究や教育にかかわる競争的資金を増やし,恒常的な財政支援である国立大学への運営費交付金と私立大学経常費補助金を徐々に減らす政策が進行中とみることができ,さらに文科省がすでに破綻する大学を想定したスキームを数年前に提起したことからすれば,大学淘汰路線は現在進行形とみていい。「身も蓋もない内容」(島野本「はしがき」)かどうかは別として,この種の本が「消える」ことが一番いい。大学関係者への「エール」と受けとめたい。
木村本がいうように,「大学への公的支援についても,国立大学と私立大学の置かれた条件も公正にすべき」で「あまりに私学が軽視されている」(97ページ)という現状も,近い将来において大学の絶対数を類型化したうえで絞り込む高等教育政策のなかでは一定「是正」する方向に進むと踏んでいる。大学を取り巻く情勢をおさえ大学の取組をいくつか紹介している。まだ「身も蓋もある」本だ。