書誌情報:エール出版社,191頁,本体価格1,500円,2011年4月1日発行

危ない大学・消える大学 2012年版 (YELL books)
- 作者:島野 清志
- 発売日: 2011/03/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)

- 作者:木村 誠
- 発売日: 2011/04/13
- メディア: 新書
- -
かたや「入学するだけの価値のない大学,反対に価値のある大学を選択するためのテキスト」(島野本)を謳い,かたや「現代の大学がサバイバルに必死になっている実態にアプローチ」(木村本)を謳っている。島野本は第17作というから木村本がそれを知りつつあえて出したということだろう。
大学の破綻,定員割れ,ボーダーフリー,Nグループ(総定員充足率が特に低い大学のこと)など実名を挙げ「ブラック大学」を徹底してたたくのか,生き残りをかけた大学の取組を追い大学のあり方を問うのかという違いはあれ,今を大学淘汰の時代として描きまちがいのない大学選びを勧めている点では共通している。
島野本は,私立大学への補助金(私立大学経常費補助金)が「打ち出の小槌」(17ページ)・「低レベル大学にとって干天の慈雨」(31ページ)になっており,淘汰されてしかるべき大学を延命させているという。研究や教育にかかわる競争的資金を増やし,恒常的な財政支援である国立大学への運営費交付金と私立大学経常費補助金を徐々に減らす政策が進行中とみることができ,さらに文科省がすでに破綻する大学を想定したスキームを数年前に提起したことからすれば,大学淘汰路線は現在進行形とみていい。「身も蓋もない内容」(島野本「はしがき」)かどうかは別として,この種の本が「消える」ことが一番いい。大学関係者への「エール」と受けとめたい。
木村本がいうように,「大学への公的支援についても,国立大学と私立大学の置かれた条件も公正にすべき」で「あまりに私学が軽視されている」(97ページ)という現状も,近い将来において大学の絶対数を類型化したうえで絞り込む高等教育政策のなかでは一定「是正」する方向に進むと踏んでいる。大学を取り巻く情勢をおさえ大学の取組をいくつか紹介している。まだ「身も蓋もある」本だ。
- 関連エントリー
- 大塚英志著『大学論――いかに教え,いかに学ぶか――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100506/1273156602
- 常見陽平著『就活難民にならないための大学生活30のルール』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100429/1272554173
- 山内太地著『こんな大学で学びたい!――日本全国773校探訪記――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100427/1272381894
- 石渡嶺司著『大学進学・就活 進路図鑑2010』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090610/1244642789
- 黒木登志夫著『落下傘学長奮闘記――大学法人化の現場から――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090402/1238679775
- 諸星裕著『消える大学 残る大学――全入時代の生き残り戦略――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090127/1233067162
- 橘木俊詔著『早稲田と慶応――名門私大の栄光と影――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081006/1223305104
- 三浦展著『下流大学が日本を滅ぼす!――ひよわな”お客様”世代の増殖――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080822/1219398745
- 中井浩一著『大学「法人化」以後――競争激化と格差の拡大――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080814/1218703847
- 石渡嶺司著『最高学府はバカだらけ――全入時代の大学「崖っぷち」事情――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071106/1194341149
- 中井浩一著『大学入試の戦後史――受験地獄から全入時代へ――』(その2)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070421/1177134519
- 中井浩一著『大学入試の戦後史――受験地獄から全入時代へ――』(その1)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070419/1176974525
- 1年前のエントリー
- おさぼり
- 2年前のエントリー
- 3年前のエントリー
- 4年前のエントリー
- 稲垣恭子著『女学校と女学生――教養・たしなみ・モダン文化――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070424/1177402381