1178後藤秀機著『天才と異才の日本科学史――開国からノーベル賞まで150年の軌跡――』

書誌情報:ミネルヴァ書房,xiv+396+8頁,本体価格2,500円,2013年9月30日発行

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生命,医学,物理,化学分野の日本の近現代科学史をさまざまなエピソードで綴っている。福沢諭吉山川健次郎高木兼寛北里柴三郎,古在由直,長岡半太郎高峰譲吉,池田菊苗,鈴木梅太郎野口英世,本多光太郎,仁科芳雄,加藤元一,岡部金次郎,八木秀次,團勝麿らのほか山中伸弥までの日本人ノーベル賞受賞者の情熱がよく伝わってくる。
科学の発展での科学者の独創性を描写しつつも,日本的な特徴を何度も指摘している。「天才と異才」の輩出とともに,「日本人は評価する力がなく,欧米からほめられて初めて同胞の研究の価値がわかる」(123ページ),「日本人は今も昔も新しいことを評価するのが苦手で,ただ前例に倣って責任を逃げようとするだけである」(190ページ),「日本の科学者は一般に新しい知見を評価できない」(199ページ)などと言う。「日本共産党共産国のために原水爆禁止運動をも分裂させた。中国や朝鮮の共産党はヨーロッパ生まれの共産思想を自分向けに消化したが,日本の社会主義者は舶来の思想にかぶれてそのまま信仰し共産圏からの政治指令にしたがった」(242-3ページ)となると疑問符がつく。
原子力の「平和」利用と3.11後の原子力行政への著者の批判的見解は「官僚独裁」(378ページ)の日本的システムにもとめているように読める。そのためにこそ「私たちがこれから学ぶべき西洋の知恵は,社会なら民主制度とか個人なら独立自尊といった無形文化」(378ページ)だとするのは画竜点睛を欠く。