1189山本英貴著『旗本・御家人の就職事情』

書誌情報:吉川弘文館(歴史文化ライブラリー410),6+212頁,本体価格1,700円,2015年10月1日発行

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旗本と御家人は幕府より地方知行(あてがわれた土地からの収益)あるいは蔵米知行(春・夏・冬の三季にわたって支給される米による生計)で家禄の支給を受ける。将軍直属の家臣で家禄が一万石未満の武士であり(いわゆる直参),両者の差は将軍に御目見(おめみえ)できるかどうかによる(できる者=旗本,できない者=御家人)。1722(享保7)年の調査では旗本5205名,御家人1万7399名という。御家人には家格が存在しそれによって譜代・譜代準席・抱席(かかえせき)があり,譜代・譜代準席は旗本と同様に幕府から家督相続を認められ家禄の支給を受け,無役のときには譜代は小普請組,譜代準席は目付支配無役に編入されていた。抱席は留守居町奉行の下での与力や同心に起用され一代かぎりの御家人に列した。
本書は幕府の人事制度の整備過程とそのなかで人事政策の担ったある小普請組頭および立身出世を狙った甲府勤番,闕所物奉行手代を例に江戸時代の「就活」を具体的に描写していた。吉宗時代は抱席の御家人が譜代に昇格するのを制限し,譜代には抱席が勤めるべき職に就くことを認め,定信時代は譜代の御家人が旗本に昇進するのを制限し,旗本には譜代が勤めるべき職に就くことを認めた。上昇できる可能性を残しながらつねに上位に位置する存在を優遇する幕府の人事制度は変わらなかった。
家柄を重視しながらも実力・能力に応じた処遇。旗本・御家人を競わせる幕府の人事システムからは身分制度を根幹としつつもその限界との軋轢を感じ取ることができる。