1719斎藤貴男著『増補 空疎な小皇帝 「石原慎太郎」という問題』

書誌情報:岩波現代文庫(社会336),340頁,本体価格1,340円,2023年3月15日発行

単行本刊行(2003年)後,版元を変えて岩波現代文庫版増補としての再々文庫化である(ちくま文庫2006年8月,講談社文庫2011年3月)。石原慎太郎都知事だった時代を対象に,石原の,石原都政の「負の遺産」を徹底批判した本である。
総選挙選での黒井シール事件や「三国人」発言,日本語世代の台湾独立派による対日工作の影響を受けている可能性が高い台湾論,障害者=無人格論,総合防災訓練による「クーデター訓練」,「つくる会」歴史教科書の都立擁護学校での採択などのほか,築地市場豊洲移転と首都大学東京(現在の東京都立大学)にみられる強行は,石原都政下で進められたものだ。
石原都知事は,「(前略)支配欲むき出しの強権を行使することに恥じらいを感じず,他者の生に対して限りなく無頓着で開けっ広げな差別主義者が,大衆の最も愚かな部分を癒し刺激して,思考停止に陥らせていく」(176ページ)。「彼の(石原の:引用者注)内部にあるのはニヒリズムであり,彼の志向するのは権力である」(198ページ)と石原の一断面を切り取りながら,「近年の彼の(石原の:引用者注)言動や影響をピンポイントで追い,必要に応じて過去を検証」(232ページ)することによって差別を政治化した石原という問題性を摘出した。
その「負の遺産」は小池百合子現知事の2期目にいたっても払拭されてはいない。