364コンスタンチン・サルキソフ著(鈴木康雄訳)『もうひとつの日露戦争――新発見・バルチック艦隊提督の手紙から――』

書誌情報:朝日選書(851),xi+317頁,本体価格1,500円,2009年2月25日発行

  • -

ロジェストヴェンスキーが妻と娘宛に送った30通の手紙の発見それ自体が奇跡のようだ。妻オリガ→娘エレーナと夫スボーチン→その娘ソフィア→息子→曾孫と伝えられ,セルビアモンテネグロ,ベルギー,フランス,モンテカルロ南アフリカウルグアイパラグアイ,アルゼンチン,ブラジルと転々とする。日露戦争から100年後サンクトペテルブルグで開かれたポーツマス講和条約100周年を記念した国際会議で公になったというわけである。
この手紙をもとに,バルチック艦隊がレーヴェリから喜望峰を経て日本海に到達するまでの220日,1万8千海里を再現し,ロシア側からの「ツシマ海戦」が描かれている。ロジェストヴェンスキー無能・無策論が実は帝政国家体制と関連すること,ロシア極東総督の極東政策がロシアのそれを規定していたこと(とくに大津事件の評価にかかわる),バルチック艦隊がロシア第一級の艦隊ではなかったことなど,著者の「ツシマ海戦」像が鮮明だ。
坂の上の雲」のロジェストヴェンスキー評も違ったものになったかもしれない。