654高井弘之著『誤謬だらけの『坂の上の雲』――明治日本を美化する司馬遼太郎の詐術――』

書誌情報:合同出版,215頁,本体価格1,800円,2010年12月15日発行

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ブックレット『検証「坂の上の雲」――その,あまりにも独善的・自国中心的なるもの――』(関連エントリー参照)を元にした書籍版である。日清戦争・北清事変と日露戦争の史実を確認し,司馬の『坂雲』の歴史観と,司馬のナショナルアイデンティティー流布に加担するテレビドラマ「坂雲」を批判している。
日清戦争は日本は受け身であった,清や朝鮮を領有しようとはしなかった,略奪をしなかった,中国の土地財産を侵さなかった,戦時国際法に忠実だったなど司馬の言説を史料と突き合わせて吟味している部分は歴史小説「坂雲」の限界を鋭く指摘するものである。ただ司馬が使用した史料の「歪曲・偽造」と最新の史料による日清・日露戦争史を元にした著者による司馬批判とは別である。司馬史観批判は冷静に前者で展開しなければならないだろう。
著者の視線には,日清・日露戦争という呼称に代わって「日本による朝鮮植民地化戦争」・「朝鮮による反植民地化戦争」,全体として「朝鮮植民地化戦争」を提唱することで,朝鮮や朝鮮人の歴史的主体を見いだしたいという願いを強く感じた。それは「坂雲」・司馬史観批判を通してわれわれの歴史観の見直しを提起するものである。
12月から放送予定の「坂雲」第3部を見よう。「是非この機会に,家族そろってドラマを御覧いただき,3人の主人公の生き方や明治の松山,日本の姿について語らう団らんの場を設けていただけると幸いに存じます」(第1部放送前に松山市教育長名で小・中学生と保護者に配付した文書)。「坂雲」に描かれた明治国家像と朝鮮・中国像をしっかり確認できるはずだ。