562中塚明/安川寿之輔/醍醐聰著『NHKドラマ「坂の上の雲」の歴史認識を問う――日清戦争の虚構と真実――』

書誌情報:高文研,183頁,本体価格1,500円,2010年6月1日発行

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日清・日露戦争を描いた「坂の上の雲」,それをドラマ化したNHKドラマは当然歴史観歴史認識が問われる。明治日本は「少年の国」だったのか,日清戦争は「祖国防衛戦争」だったのか,伊藤博文は「臆病なほどの平和主義者」だったのか,福沢諭吉は「一身独立」を説いたのか。著者たちの視線は「明らかに事実に反する原作の記述」に向けられている。歴史書ではない文学作品とはいえ歴史描写であるかぎり,司馬史観・原作への批判はあってしかるべきだ。
NHKドラマが描かなかったもの――本書では第一部終了までで主として日清戦争を対象――は,朝鮮王宮占領,朝鮮での抗日闘争,旅順虐殺,「歴史上古今未曾有の凶悪」事件である「王妃殺害」などである。たとえば,ドラマ化するにあたって出版した『歴史ハンドブック』(NHK出版,[isbn:9784149107295]https://akamac.hatenablog.com/entry/20091226/1261836881)では「(閔妃は)閔妃に不満を持つ大院君や改革派勢力,日本などの諸外国に警戒され,1895年,大院君を中心とした開化派武装組織によって景福宮キョンボッグン)にて暗殺され,その遺体は武装組織により焼却された。悲しい運命に翻弄された一人でもある」(17ページ)はあまりにひどいというわけだ。
「坂雲」とドラマは朝鮮と中国,広くは近現代史を学び直す機会とみなせば本書の刊行の意味としては大きい。司馬作品を好むというおじさんたちは「坂雲」とドラマの「デマゴギー」(183ページ)を衝くのに相応しい。司馬の作品は作品として,ドラマはドラマとして読み視る。「日清・日露戦争の歴史は「坂雲」とドラマとは別のところにある。