1117フィリップ・リンベリー/イザベル・オークショット著(野中香方子訳)『ファーマゲドン――安い肉の本当のコスト――』

書誌情報:日経BP社,493頁,本体価格2,000円,2015年2月9日発行

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農業の工業化にともない鶏,豚,牛,魚などの大規模経営が普通にみられるようになった。鶏肉,卵,牛肉,牛乳であれ,動物をより良い環境で,自然な餌を与えて育てる農業は集約的ではないと否定される一方,家畜の餌として魚粉――「工業型農業の裏に隠された忌わしい秘密の一つ」(135ページ)――や大豆が工場式畜産システムに大量に投じられている。世界の全国持つ収穫量の三分の一と大豆の90%が工場式農場の家畜の餌になっている。さらに遺伝子組み換え作物と農薬がそのために動員される。
バタリーケージというブロイラー用ケージ,クレートという子牛用の檻,ソウ・ストールという妊娠した雌豚用の檻で育てられた卵や肉が健康的とはとてもいえまい。世界の食料の90%を占める作物の約70%が蜂の受粉を必要とするが,その蜂の減少は農業の集約化の犠牲になっている。家畜生産工場での排泄物処理も海岸汚染や水質悪化に結びついている。
「ファーマゲドンを回避するのは簡単だ。信頼できる地元の生産者や小売店を通じて,地面で育った(平飼いやオーガニック)家畜の産物を買い,それを残さず食べてごみを減らし,あわせて肉を食べ過ぎないようにすれば,田園地帯,自分の健康,動物の福祉のすべてに恩恵を与えつつ,食事を堪能することができる」(443ページ)。
著者のひとり(リンベリー)は家畜の福祉向上をめざす国際的な慈善団体 Compassion in World Farming(世界の家畜に思いやりを)の最高経営責任者である。一生を通じて地面で育てない鶏,豚,牛に遺伝子組み換え作物と魚粉をたっぷりあたえる農業に未来はない。