1158沢木耕太郎著『キャパへの追走』

書誌情報:文藝春秋,318頁,本体価格1,500円,2015年5月15日発行

キャパへの追走

キャパへの追走

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ロバート・キャパが撮った現場に行き,同じような構図で撮る。あの「崩れ落ちる兵士」の疑問を解くという目的を包蔵しつつ始まった「キャパの世界,世界のキャパ」の連載(『文藝春秋』)を一書にまとめたものだ。
コペンハーゲンで講演中のトロツキーを撮ったキャパのデビュー作とスターリンの刺客によって暗殺されたときにキャパもメキシコシティーに滞在していた偶然,ビキニ被曝が大事件になっていた時に予定になかった焼津まで行ったキャパ,「崩れ落ちる兵士」を戦闘シーンに創作してしまったキャパなどを冷静に描き出していた。
戦争カメラマンとして冒険と旅に輝いていたキャパがベトナムで地雷を踏んで命を落とすまで,キャパに寄り添って開拓した「人物+紀行ノンフィクション」はなにかしら著者の平和への憧憬を感じた。ノルマンディー上陸シーンのピンボケ写真から「戦争を声高に語ったり,煽ったりする人たちは,決してこのような場所で殺したり殺されたりすることのない,安全地帯にいる人たちなのだ」(206ページ)と解釈していた。
「崩れ落ちる兵士」とピカソの「ゲルニカ」とを対比させ,「崩れ落ちる兵士」は「あまりにも説明が少な」く,「ゲルニカ」は「あまりにも説明が多いため」,「偉大な作品と錯覚されているのではないか」,とりわけ「ゲルニカ」は「世界中の巨大な錯覚の集合体」(241ページ)という著者の感懐は当たっているかもしれない。キャパはピカソを多く撮っている。そのふたりが奇しくも「スペイン戦争に関する偉大なイコン<聖像>を生み出した者として並び称される」(同上)。追走から見えてきたもうひとつの接点がここにもあった。