1503日比嘉高編『台湾・新高堂書店 村崎長昶——事跡と回想録——』

書誌情報:金沢文圃閣,246頁,定価16,800円,2020年1月発行
[isbn:9784909680624:detail]

 かつての日本の植民地や移民地には多くの小売専業の書店や出版も営む書店があった。ただ,日本化がすなわち日本語化であるかぎり,その多くを「内地」発の日本語の雑誌や書籍によるほかなく,それは「大日本帝国」の地理的拡大と無関係ではなかった。  多くの「外地」書店のうち,上海・内山書店(内山完造)と台北・新高堂書店(村崎長昶[ながあき])は例外的によく知られている。本書は,後者村崎の自伝『記憶をたどって 八十年の回顧録』(西田書店,1983年6月)の再録を本論に,日比の自伝解題,新高堂書店出版目録,新高堂を対象にした台湾における小売書店の歴史を配したもので,台湾小売書店歴史となっていると同時に日本による台湾統治の一端を垣間見ることができる。

 村崎は,台湾総督府初代総督樺山資紀の一行に陸軍省雇として同行し,台湾「割譲」式典に参加して以来,「書籍・雑誌・文房具」の新高堂書店で成功し財を成し(自伝巻末に「土地・家屋一覧表」がついている),台湾書籍商組合(組合長)や台湾書籍株式会社(筆頭株主),台北信用組合(役員)などの要職,台北市会議員なども務め台湾随一の名士となった。  日本の敗戦後,「在台五十年,粒々辛苦の結晶」だった土地,店舗,貸家,公債株券預貯金すべてを「国家の賠償金前渡しに接収」され,帰国した。日本では息子夫婦が中目黒駅前で新高堂書店を再創業し,現在も商業施設ナカメアルカス内の新店舗で営業している(台湾新高堂書店の創業1898年から数えると122年の店歴となる)。「新高堂書店 BOOKS & ART NIITAKADO SINCE 1898」が見える(→http://www.nakamearukas.net/niitakado.html あるいは https://www.city.meguro.tokyo.jp/smph/kurashi/shigoto/progress_web/progress_list/progress_shotengai/genki_shop/genkinaomise2.html)。

 台湾新高堂書店は,游彌堅らが譲り受けて東方出版社となり,林呈祿らとともに台湾有数の出版社兼小売書店に発展史,現在は出版社となっている。  資料として掲載されている当時の『台湾日日新報』(1917年2月27日)に,新高堂書店など3書店が台北市内で扱った雑誌の冊数調査があった。その中に,「経済雑誌としては『国民経済雑誌』,『経済論叢』,『生活』,『東洋経済新聞(「新報」の間違いか?:引用者注)』等が各5,60部宛出て居る」(171ページ)とある。『国民経済雑誌』は現在神戸大学経済経営学会によって刊行されているが,当時は全国的な経済雑誌として東京・宝文館から月刊で出版されていた(1925年から神戸高商で編集・発行となる)。これ以前の同じ『台湾日日新報』(1909年6月24日)には『国民経済雑誌』の新高堂書店での店売り部数が20とある(175ページ)。『経済論叢』は京都帝国大学経済学会の雑誌(1915年創刊)で現在までも続いている。『経済論叢』の影響力を知る記事だった(東京帝国大学の『経済学論集』は1922年創刊)。

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