1746窪島誠一郎著『父 水上勉[新装版]』

書誌情報:白水社,344頁,本体価格2,900円,2022年4月5日発行

第二次世界大戦中に離別していた実の父親が戦後30年経って水上勉と判明したという著者の文学者・水上勉論である。腹違いの妹の述懐「(幼い娘をおぶって酒場を転々していて:引用者注)そんなお,大したことなかたわよ。忘れられたって,私の場合は一日か半日だったんだから……誠一郎さんなんか,三十何年も忘れられていたんでしょ」(117ページ)。父親への思いは複雑だ。
水上の幼少時代に遡り,作品から多くの引用を示すことで水上勉評伝といってもいい内容だった。
大分で障害者が働いて自活する福祉施設「太陽の家」建設の経緯やふたたび妹の「お父さんはね,小説さえ順調に書けていれば,それでよかった人なのよ」(305ページ)との言葉に,水上論の一端を見た。