1787石井妙子著『女帝 小池百合子』

書誌情報:文春文庫(い-88-2),479頁,本体価格1,000円,2023年11月10日発行

小池百合子学歴詐称はこの一文に尽きる。「カイロ大学卒業という経歴に「詐称」の噂は常に付きまとい,選挙の度に彼女はそれをうち慶してきた。(改行)自分に好意的な雑誌,テレビに登場すると噂を否定し,証拠として「卒業証書」や「卒業証明書」を読み取れないほど小さく,あるいは一瞬だけ見せるという方法で。だが,その「卒業証書」や「卒業証明書」を公の場で公開したことは,これまでに一度もなく(2020年5月時点,都議会で要請されても拒否してきた。私もまた,公開を求めたが,彼女はそれに応じなかった」(66-7ページ)。
本書の単行本出版直後の2020年6月15日の都知事選挙の政策についての記者会見で,本人退席後当時の都民ファーストの会代表荒木千陽が取材カメラに映す「公開」をおこなった。コピーするなどして広く検証に耐える「公開」ではなかった。卒業(本人は「首席」で卒業と公言してきた)したのであれば,本人が申請しカイロ大学が発行する「成績証明書」を出せばすべての問題が氷解するするはずなのにもかかわらず,逆に「卒業証書」や「卒業証明書」の偽造嫌疑がいや増す結果となった。
本書は学歴詐称問題も含めて小池の「基本的に耳学問の人」(203ページ)・「「学ぶ」ことはせず,「見せる」ことにしか関心がない」(279ページ)資質や対北朝鮮・中国への強硬姿勢を「人気を頼りとする彼女の数少ない「政治信条」」(242-3ページ)を抉り出している。歴代の都知事がおこなってきた関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者追悼式への追悼文の送付をとりやめた。控えていた都議選での票の獲得を考えての対応からである。環境大臣のときの水俣病患者への冷たい対応とクールビズ推進という目立つパフォーマンス,築地の豊洲移転問題での「築地は守る,豊洲を活かす」政策,希望の党結党の混乱(結果は民進党の解体)など大山鳴動した案件は多い。
都知事になるにあたって口にした公約は果たされず,公約にもなかったことが思いつきで決まっていく。メディア受けする派手なイベントによって,自分の価値を上げようとする。都政が私物化され,税金が知事の政治力維持に浪費されていく」(460ページ)。命がけで実名告発した北原百代,提供された資料をすべてコピーし第三者に託している著者の覚悟とは別に,黙りを決め込んでいる日本のマスコミには呆れるばかりだ。
小池百合子都知事には単行本の出版時,文庫本の出版時に何度となく取材を申し込んだが,一度も応じてはもらえなかった」(462ページ)。神宮球場で野球の始球式に出る時間があるなら(これも公務だそうな),取材対応は十分可能だと思う。