書誌情報:東京大学出版会,xx+328+19頁,本体価格5,800円,1986年9月30日発行
- 作者:李 基俊
- メディア: 単行本
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中国における西欧経済学導入史との関連で,古書店で入手した*1。『韓末西欧経済学導入史研究』(一潮閣,1985年)の日本語版である。韓末(1880年〜1910年)における近代西欧経済学(思想・理論・政策)の導入を徹底して調べ上げた研究書である。
韓末の経済学は,日本に導入された古典派,新・旧歴史学派,社会主義派などの経済学を迂回して導入された。その役を担ったのが韓末の渡日留学生と「韓国内人士」だった。「富夥・富国」のための経済学は,日本の韓国併合によって韓国近代化へのガイドとしての役割を果たせなかったことになる。
渡日留学生と「韓国内人士」による日本(一部は中国)経由の西欧経済学導入は韓末の政策課題に対応した産業立国論(農工商併進論・工商主義・農本主義),貿易論(自由・保護貿易論),マルサス人口論,奢侈経済論という具体論に展開する。さらには韓末の代表的経済学者として兪承兼・金大煕・金鎮初――3人とも日本留学経験者――の理論と思想も詳しく紹介している。このうち兪は「韓国のアダム・スミス」(256ページ)と呼ばれ,金大煕は救国善後策を,金鎮初は農村啓蒙運動と農業振興運動を,それぞれ主張した。
西欧経済学の導入を通して,日韓両国の結びつきと日本の経済学による韓国への再伝搬の軌跡がよく見えてくる。本書の対象時期は1910年までである。「1910年8月の日本帝国主義による国権喪失を潮時として,西欧経済学の理論と思想の導入は韓半島からほとんどその姿を消していった」(2ページ)。著者の思いが伝わってくる。
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*1:直接の契機は永田圭介著『厳復――富国強兵に挑んだ清末思想家――』(関連エントリー参照)を熟読する機会があり,20世紀始めの日中韓における経済学導入史に関心が広がったことによる。本書については杉原四郎著『日本の経済思想家たち』(日本経済評論社,1990年6月,[isbn:9784818804234])に詳しい論評があり,松野尾裕著『日本の近代化と経済学――ボン大学講義――』(日本経済評論社,2002年9月,[isbn:9784818814431])でも紹介されている。