996西部忠著『貨幣という謎――金と日銀券とビットコイン――』

書誌情報:NHK出版新書(435),254頁,本体価格780円,2014年5月10日発行

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本書にはふたつの特徴がある。ひとつは貨幣成立にかかわっている。貨幣商品説を踏襲しつつ,貨幣が物を商品にし商品売買の場を市場に変えるとする。貨幣を変えれば市場が変わるという積極的な貨幣論の展開に繋げている。
ふたつめは,貨幣機能を4つにまとめ――交換手段・流通手段,価値尺度・購買手段,蓄積手段,支払手段――,情報化と信用貨幣化に新しい可能性を見いだしていることである。世界貨幣=金という概念は最初から著者にはない。「観念の自己実現」からのみ理解する従来の貨幣論を超えて「信頼の自己実現」としてコミュニティ通貨を構想している。
貨幣が国家によって独占され通貨の統合も行われてきた。貨幣論レベルからその問題性を指摘し,「貨幣の脱国営化と貨幣の競争を目指す自由貨幣運動」(246ページ)の提唱は一読に値する。著者はすでに『地域通貨を知ろう』(岩波ブックレットNo.576,[isbn:9784000092766])などで,地域通貨の実践とその意味について考えてきた実践家でもある。