1011佐藤優著『いま生きる「資本論」』

書誌情報:新潮社,251頁,本体価格1,300円,2014年7月30日発行

いま生きる「資本論」

いま生きる「資本論」

  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2014/07/31
  • メディア: 単行本

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新潮講座「一からわかる『資本論』」第一期全6回(2014年1月〜3月)(→http://www.shinchosha.co.jp/blog/chair/class/1401013.html)を活字化したもの。「恋とフェチシズム」,「どうせ他人が食べるもの」,「カネはいくらでも欲しい」,「われわれは億万長者になれない」,「いまの価値観を脱ぎ捨てろ」,「直接的人間関係へ」のタイトルで,「ヘリコプター方式」――「『資本論』の中にいくつかあるポイントをつかみ取り,いわば山脈を山の頂きから次の頂きへとヘリコプターで渡っていくような方法」(71ページ)・「『資本論』を山脈と見て,この山の頂きからあの山の頂きへとヘリコプターで移っていきながら,とにかく山脈の全体を見渡」(151ページ)す――で『資本論』を読む試みである。
資本論』の概念や論理のエッセンスを著者の体験と現代の問題から理解しようという姿勢が一貫していていて『資本論』を一読あるいは再読してみようという気持ちになる。外務省勤務時代のロシアネタは著者にしか仕込めない。時事ネタを折り込み笑いをとりながらも宇野理論をベースに『資本論』を語っていた。
資本主義分析の書・『資本論』を紐解き,商品や貨幣に惑わされることなく人と人との直接的関係の構築に希望を見いだしていた。
新日本出版社版『資本論』は「共産党に都合のいい翻訳をしているところがある」(53ページ)とのことだが,新メガ刊行をふまえた訳注があることが新日本出版社版の特徴である。富塚良三著『経済原論――資本主義経済の構造と動態――』([isbn:9784641093140])を「宇野学派でない本も挙げておきましょう」(69ページ)と紹介し,「日本の大学の中でマル経がいちばん強い慶應大学の先生」(同)とある。博学多識な著者にしては珍しい勘違いである。富塚先生は慶應におられたことはない。