1487トーマス・カリアー著(小坂恵理訳)『ノーベル賞で読む現代経済学』

書誌情報:ちくま学芸文庫(カ-49-1),655頁,本体価格1,800円,2020年7月10日発行

ノーベル経済学賞の40年』(筑摩選書上・下,2012年)の文庫版。2009年までの41年間の64名の受賞者すべてを対象として,主な業績を中心に,また,エピソードを添えながら,紹介した好著である。2010年以降2019年までについては文庫版解説の瀧澤弘和が「これまでの研究との連続性だけでなく,経済学が新たな領野を開拓して,制度設計やより実践的な政策評価に焦点を当てたものへと変化しつつある様子も窺うことができる」(605ページ)とまとめている。

さて,本書に戻ると,受賞年代毎にひとりひとりの業績を辿るのではなく,自由市場主義者の経済学(ハイエクフリードマン,ブキャナン),ミクロの信奉者:シカゴ学派(ベッカー,スティグラー,シュルツ,コース),カジノと化した株式市場(ミラー,マーコウィッツ,シャープ,ショールズ,マートン),さらにミクロに(ヒックス,ヴィックリー,マーリーズ,L・スミス),行動主義者(サイモン,カーネマン,アカロフスティグリッツ,スペンス),ケインジアンサミュエルソン,ソロー,トービン,モディリアーニ,クライン,ミュルダール),古典派の復活(ルーカス,プレスコット,キドランド,フェルプス),発明者たち(クズネッツ,ストーン,レオンチェフ,カントロヴィチ,クープマンス),ゲームオタクたち(ナッシュ,ゼルテン,ハーサニ,オーマン,シェリング,ハーヴィッツ,マスキン,マイヤーソン),一般均衡という隘路(アレ,アロー,ドブルー),世界経済への視線(セン,ルイス,ミード,オリーン,フルーグマン,マンデル),数字へのこだわり(フリッシュ,ティンバーゲン,ホーヴェルモ,グレンジャー,エングル,マクファデン,ヘックマン),歴史と制度(フォーゲル,ノース,ウィリアムソン,オストロム)と13の括りである。

現実に存在する課題を解決しようとしているのかどうかが著者の叙述の中心にあり,自由市場主義,ミクロ経済学,金融経済学,新古典派ゲーム理論計量経済学については批判的である。「数学ではなく経済学のアイデアに注目し,理論や洞察をすべて言葉で解説」(28ページ)する姿勢にもあらわれていよう。

レオンチェフ(1973年受賞)に触れている箇所で彼の投入産出モデルとケネー『経済表』との類似を指摘している。「1930年代にレオンチェフが登場するまで,このコンセプトはほとんど顧みられなかった」(366ページ)としている。経済学史上では忘れられたケネーの復権は19世紀後半にマルクスによって果たされていた。

ムハマド・ユヌスのような,経済学は人間性に関わる学問であり,人間性を切り離すべきではないと確信する経済学者を(ノーベル経済学賞選考委員会は:引用者注)無視し続けてきたのである。(改行)実際,特に新しい洞察を得たわけでもないのに,経済でよく知られた考え方や行動を数学モデルに置き換えただけで,ノーベル賞に選ばれた学者が多すぎる」(589ページ。ユヌスのノーベル賞受賞は経済学賞ではなく平和賞(2006年)であった。

-関連エントリー
--シルヴィア・ナサー著(塩川優訳)『ビューティフル・マインド――天才数学者の絶望と奇跡――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20131207/1386425639
--ノーベル経済学賞受賞者の傾向を色分けしてみる(2008年版) →https://akamac.hatenablog.com/entry/20081015/1224059360
--ノーベル経済学賞受賞者の傾向を色分けしてみる(2007年版)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071016/1192527099
--ノーベル経済学賞受賞者の傾向を色分けしてみる →https://akamac.hatenablog.com/entry/20070405/1175761677

-1年前のエントリー
--張本,決勝進出ならず(卓球アジア選手権)→https://akamac.hatenablog.com/entry/2019/09/22/174331
-2年前のエントリー
--平成30年度「Society5.0実現化研究拠点支援事業」→https://akamac.hatenablog.com/entry/20180922/1537625941
-3年前のエントリー
--『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第19号/2017年春号→https://akamac.hatenablog.com/entry/20170922/1506087520
-4年前のエントリー
--あわづ温泉→https://akamac.hatenablog.com/entry/20160922/1474541223
-5年前のエントリー
--リオ・オリンピック卓球代表→https://akamac.hatenablog.com/entry/20150922/1442929844
-6年前のエントリー
--加瀬英明著『日本と台湾――なぜ,両国は運命共同体なのか――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140922/1411396959
-7年前のエントリー
--福原,石川ともベスト8どまり(卓球女子ワールドカップ神戸大会)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20130922/1379858116
-8年前のエントリー
--愛媛大学いもたき会2012→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120922/1348327376
-9年前のエントリー
--丸善ライブラリーニュース第14号→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110922/1316698515
-10年前のエントリー
--大学犬はなちゃんの日常(その186)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100922/1285164199
-11年前のエントリー
--『図表でみる教育 OECDインディケータ(2009年版)』概要)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090922/1253628189
--いまどきの高等学校→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090922/1253628190
-12年前のエントリー
--大学犬はなちゃんの日常(その80)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080922/1222075135
--愛媛大学天皇杯サッカー選手権二回戦突破ならず→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080922/1222075136
--中国・四国地区国立大学合同入試セミナー in 岡山→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080922/1222075137
--和歌山県立博物館および館蔵品選集→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080922/1222075138
-13年前のエントリー
--アン・ヴァーノン著(佐伯岩夫・岡村東洋光訳)『ジョーゼフ・ラウントリーの生涯――あるクエーカー実業家のなしたフィランソロピー――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070922/1190453448
--大学犬はなちゃんの日常(その27)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070922/1190453449