書誌情報:岩波新書(1239),202頁,本体価格720円,2010年4月20日発行
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著者が自認するほど「異端」とは思わない。新自由主義の評価,小さな政府論の陥穽,対人サービスのユニバーサル化など「分かち合い」の経済学の展望こそ正統である。
新自由主義の「コモンズの悲劇」論批判は痛快である。「そもそも共有地にすれば,「コモンズの悲劇」が生ずると主張しておきながら,市場経済の競争に敗れた者は,コモンズに依存すればよいと諭すことは喜劇以外のなにものでもない」(24ページ)。新自由主義は,市場競争での敗者は政府による生活保障ではなく家族やコミュニティなどによる生活保障のよるべきだと主張しているからだ。
日本における小さな政府論についても明快である。「日本では第二次大戦後に「福祉国家」を目指すこともなく,国際的にみても一貫して「小さな政府」だった」(69ページ)。「「小さな政府」のドグマを掲げて(法人や高額所得者のための:引用者注)減税を実施し,「均衡財政」のドグマを口実に,社会的支出を切り捨て」(134ページ)たのだ。さらに消費税つまり付加価値税という「経済的中立性」のドグマが加わる。
「貧しくとも豊かであっても,育児サービスは無料,養老サービスは無料,医療サービスは無料などと,対人サービスをユニバーサルにしたほうが,格差や貧困を解決してしまう」(116ページ)という水平的再分配論は,「再分配のパラドックス」(貧困者に限定した現金給付を手厚くすればするほど,その社会は格差が激しくなり,貧困が溢れ出るというコルピの命題)を超える「分かち合い」につながってくる。
「分かち合い」の「大きな政府」の実現は「人間を愛する心優しき方々」である「政治に携わる方々」(196ページ)にかかっている。
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