929田澤耕著『〈辞書屋〉列伝――言葉に憑かれた人びと――』

書誌情報:中公新書(2251),iv+266頁,本体価格860円,2014年1月25日発行

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辞書には多くの言葉の意味と用例が,その辞書の編纂には多くの物語がある。『オックスフォード英語辞典』(ジェームズ・マレー),『ヘブライ語大辞典』(ベン・イェフダー),『カタルーニャ語辞典』(プンペウ・ファブラ)・『カタルーニャ語バレンシア語・バレアルス語辞典』(アントリ・マリア・アルクベー),『言海』(大槻文彦),『アメリカ語辞典』(ノア・ウェブスター),『和英語林集成』(ヘボン),『西日辞典』(照井亮次郎・村井二郎),『スペイン語用法辞典』(マリア・モリネール),『カタルーニャ語辞典』・『日本語カタルーニャ辞典』・『カタルーニャ語小辞典』(田澤)と辞書を編んだ人物が主人公ではあるが,辞書が陽の目を見るまでの人間模様がいかにも熱い。
とある病院から必要な用例を調べ上げたマイナー博士の存在が不可欠だった『オックスフォード英語辞典』――マルクスの娘エリナーも協力者(リーダー)のひとりだったが,「まるで役に立たなかった」(22ページ)――,日常語に使える言葉のために編集した『ヘブライ語辞典』,フランコ独裁下におけるカタルーニャの政治的位置づけに影響されるふたつの辞典,自分の人生を賭けて作った『言海』,ピューリタン的倫理を元に用例を集成したウェブスター,日本語を横組みにして印刷したはじめての印刷したヘボン,メキシコへの移民によって植民者のために作られた日本ではじめての本格的スペイン語辞書,主婦によって15年かけて編まれた学習者本位で普通の人でも使える『スペイン語用法辞典』,日本にはなかったカタルーニャ語・日本語辞書に挑戦した著者と,動機はそれぞれ異なっても言葉を集めるにいたった事情が興味深い。
ヘボン(正確にはヘップバーン)は明治学院創立者でもある。創立150周年の昨年,横浜開港資料館で昨年(10月18日〜12月27日),「宣教医ヘボン――ローマ字・和英辞書・翻訳聖書のパイオニア――」展があった(パンフレット→http://mg150.jp/event/images/201302266-3.pdf)。