1135ニコラス・グリフィン著(五十嵐加奈子訳)『ピンポン外交の陰にいたスパイ』

書誌情報:柏書房,422頁,本体価格2,600円,2015年8月10日発行

ピンポン外交の陰にいたスパイ

ピンポン外交の陰にいたスパイ

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卓球世界選手権大会男子団体の優勝杯はスウェイスリング杯である。また同大会などではスウェイスリング方式の対戦が採用されている。3選手ずつがABCABかXYZYXで対戦する。両方に名を残しているスウェイスリングとは本書前半の主人公であるアイヴァー・モンタギューの祖父サミュエルがBaronを授爵した爵位である。アイヴァーはヒットコックらとの交流や映画制作でもその名が知られている。フェビアン協会トロツキーとの交際もあった。そして国際卓球連盟初代会長でもあった。うえに触れたスウェイスリング杯とスウェイスリング方式は卓球への貢献の証である。
このアイヴァーがコミンテルン時代からソ連のスパイであり,卓球が世界中に共産主義を広める道具として最適だったと見なしたがゆえに国際卓球連盟を設立したという。ピンポン外交として実を結んだ中国の外交手腕を用意したのがアイヴァーだともいう。
スパイと卓球普及とがどのように関係したのかについては残念ながら論証されていない。多くの紙数を費やし詳述されるのがいわゆるピンポン外交と当時の卓球事情,文革に翻弄された卓球選手たちのその後である。
ピンポン外交を「アメリカにとっては思いがけず訪れた転機」「中国にとっては,何年もかけて周到に準備を重ねてきた成果」(12ページ)とするよりは,両国が緻密に練り上げた結果としたほうが正しいのではと思う。訳者が言うように最初は中国における卓球の歴史とピンポン外交について書くつもりが,アイヴァーの存在に気づきスパイ物語を挿入することになった。「ソ連共産党スパイと卓球の話が同居する二世帯住宅のようなユニークな本」(380ページ)というわけだ。
荻村伊知朗,容国団(59年ドルトムント大会男子シングルス優勝者で中国のすべてのスポーツで最初の国際大会優勝者),荘則棟,コーワン(ピンポン外交の「立役者」)らが登場し卓球物語を彩っていた。荻村を除いて不幸な結末ではあったが。
原題は 'Ping Pong Diplomacy: The Secret History Behind the Game That Changed the World' であり,「二世帯住宅」と形容するならこの邦題は相応しくない。