693速水健朗著『ラーメンと愛国』

書誌情報:講談社現代新書(2127),283頁,本体価格760円,2011年10月20日発行

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

  • -

「ラーメンと日本人」論をおもしろく読んだ。ラーメンの作り手と食い手,さらにはメディアの扱いからラーメンの変遷を辿り,中国から伝わったラーメンがいかに和風化したかを追う。アメリカ産輸入小麦使用を余儀なくされた背景からチキンラーメンに代表される大量生産方式の導入を経て国民食になる理由,ご当地ラーメンの普及,さらに「ラーメン道」になった出世物語を紡いでいる。
ラーメン普及とアメリカの小麦戦略とを絡ませているのはラーメン史として秀逸である。チキンラーメンの登場を「アメリカにおけるT型フォードにあたる象徴的な製品」(70ページ)とみ,嫁姑戦争から独身生活ひいては受験・新左翼・戦場(ベトナム戦争)を通じて国民食になる過程の叙述もラーメン史に止まらない現代史になっている。
ご当地ラーメンの普及を「地域の観光化にともない,周囲の店が右に倣えで同じメニューを提供するようにな」りと冷めた視線と「地方が観光資源としてのラーメンに注目するきっかけ」(150ページ)になったと熱い視線でも捉え,地域の個性や特性を反映したものではなく,むしろ「地方が個性を失い,固有の風土が消え去り,ファスト風土化」(176ページ)したと説明する。また日本をラーメン列島として地図を塗り替え,ラーメン=日本の国民食とする「物語」はラーメン博物館からの発信としてメディアの影響の大きさを指摘している(「ちりばめられたフェイクの物語」・「偽史としてのラーメン列島神話」(182ページ))。
現代のラーメン(店・作務衣を着る店主)はかくして「セラピー的なナショナリズム」(252ページ)・「多文化主義を肯定するナショナリスト」(260ページ)・「〈趣味的〉ナショナリズム」(同)として表出し,「再び魅力ある日本の歴史や伝統を呼び起こそうという意識の媒介者」(262ページ)となる。
「ラーメン界の右傾化」を確認することでけっきょく著者は何を主張したかったのか。そして右傾化,保守化が本質的なものではなく趣味的,遊戯的,リアリティショー的,フェイク的であるとするなら,どんな意味をもつのだろうか。右傾化した先は何か。現代史,社会史に位置づけた意欲的なラーメン論が最後にのびきってしまい,食えなくなってしまった印象だ。アーメン。