1632熊谷徹著『ドイツ人はなぜ,1年に150日休んでも仕事が回るのか』

書誌情報:青春新書(PI0462),189頁,本体価格880円,2015年8月15日

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有休30日(実際には40日前後),同消化率100%,夏休み2週間,1年の長期休暇制度,男性も普通に取る育児休暇制度。それでも労働生産性は日本の1.5倍。一朝一夕で根付いたわけではないドイツの働き方改革は現在進行形である。
「ドイツ語で Urlaub(ウアラウプ) と呼ばれる休暇は,人々のメンタリティや人生観を理解する上で,最も重要な言葉の1つである」(16ページ)。たしかに,Urlaub を独独辞典(Langenscheidt, Großwörterbuch Deutsch als Fremdsprache)で引くと,'die Zeit, in der man in seinem Beruf nicht arbeiten muss (damit man sich erholen kann)' とある。「ひとが自分の仕事で働いてはならない時間(同時に休養することができる時間)」である。休暇中にメールをチェックしたり電話で確認したりするのは休暇にあたらない。それほど日独の休暇の捉え方から違う。ドイツでは「休暇は神聖なものであり,手をふれてはならないもの」(62ページ)である。
ドイツの働き方を支える思想が,西ドイツ時代から続く「社会的市場経済」(Soziale Marktwirtschaft)の原則である(西ドイツ時代の首都ボンがライン河畔にあったことから「ライン型資本主義」とも言う)。政府が大きな役割を果たす経済体制であり,企業間の競争は政府が定めた法律の枠内でと限定され,勤労者の権利などの公共の利益をも重視する。米英型の自由放任主義とは一線を画し,勤労者を守る「多重防護システム」というわけである。
あわせて,労働時間の制限や上司の長期休暇のために早めに調整しなければならない「休暇・出張前ストレス」や「サービス砂漠」と評されるサービスの質の低さをも指摘したドイツの現状報告は,米英型を目指しているかのように「新しい資本主義」を掲げる政権(党)の日本とあまりにも対照的である。