661辻村みよ子著『ポジティブ・アクション――「法による平等」の技法――』

書誌情報:岩波新書(1330),x+210+12頁,本体価格760円,2011年9月21日発行

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九州大学理学部数学科の「女性枠」入試は大きな関心を呼んだ。募集人員9人のうち5人を「女性枠」とするものだったが,「逆差別」「法の下の平等に反する」などの多くの異論があり,撤回したのだった。男女平等の観点から女性の入学者を増やしたいという目的は「女性枠」ということではなく別の手段で達成すべきということを教えたことになる。
この例のように,ポジティブ・アクションアメリカの「アファーマティブ・アクション」,国連女性差別撤廃条約第4条の「暫定的特別措置」)と「法の下の平等」との関係,主権や代表制との関係という理論的課題がある。また,ポジティブ・アクションの実効性をより積極的に推進しようという著者の強い主張がある。もちろん,ポジティブ・アクションは男女平等に限定されず,年齢・国籍・障害・言語・宗教などの属性にもとづく差別をなくそうということでもあり,議会制民主主義や国民主権の実に直結している。「パパ・クオータ制」はじめ「クオータ」(割当制)の各国での多様な展開の紹介は参考になる。
男女共同参画委員会等を設置している大学が8.4%,女性教員増加をめざした達成目標を設定している大学は4.0%(いずれも私立大学の場合,日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会の2007年アンケート調査)という現実,また全国の防災会議には女性の委員ゼロが13県あるという現在進行形のお寒い現状は「ポジティブ・アクションの「出番」」(205ページ)を促している。
ジェンダー法学,ジェンダー平等,ジェンダー社会科学を標榜してきた著者の,「3.11」を強く意識したポジティブ・ブックである。