1136松尾匡著『この経済政策が民主主義を救う――安倍政権に勝てる対策――』

書誌情報:大月書店,242頁,本体価格1,600円,2016年1月20日発行

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金融緩和と政府支出の組合せ,つまり日銀の緩和マネーを利用して政府が福祉・医療に使い雇用拡大をはかれという主張であり,かねてから著者が力説してきたものである。本書の最大の特徴はいまこれを実現しないと安倍政権の野望である改憲(復古教育,国防軍天皇元首化を許してしまうという著者の危機感だ。
アベノミクスの「三本の矢」・「新三本の矢」はおそらく機能しないだろうという見通しのもと,金融緩和と政府支出の組合せが明確な対案になりえ,悪政インフレ,長期金利高騰,国債暴落も起こらないことを説明し,復権したケインズ理論にもとづき現在の欧米左派の標準的な主張になっていることを紹介している。
アベノミクスの消費税増税法人税減税,規制緩和ではなく,インフレ目標を掲げるのであればそれに対応して最低賃金や年金や社会保障給付も上げる。中央銀行が積極的に財政ファイナンスを進めることは中央銀行のこれまでの制約を取り払うことを意味し,中央銀行の改革につながる論点を含んでいる。政府支出を格差縮小や教育に使う財源を緩和マネーにもとめる著者の見立てはまったく正しい。
小選挙区制を廃止して比例代表制を基本とする選挙法改正で一致して選挙共闘をせよも評者には説得的だ。