1053上原久枝・藤井基男・織部幸治編『荻村さんの夢』

書誌情報:卓球王国ブックス,195頁,本体価格1,500円,2006年1月23日発行

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荻村さんとは,オリンピックの競技種目になかった時代の日本を代表する選手として活躍し,外国発スポーツで日本人初の国際卓球連盟会長をつとめた荻村伊智朗(1932.6.25-1994.12.4)である。1953年世界選手権大会(ロンドン)から61年世界選手権大会(北京)までの8年間6大会で毎年金メダルをとりつづけ合計12個を獲得した(荻村12個目の金メダルは松崎キミ代との混合ダブルスであり,この大会で日本男子団体6連勝が中国に絶たれ,荘則棟が男子シングルス優勝した。「50年時代の日本の時代」から「中国時代の幕開け」と言われている)。現役引退後は指導者・理論化として活躍し,1987年からなくなるまで国際卓球連盟会長をつとめた。
オレンジボールやカラフルなユニホームの採用,賞金大会の導入,1991年世界選手権大会(千葉)での「コリア統一チーム」の実現,卓球の国際的普及など大きな改革をおこなった。
荻村の夢のひとつはアジアとヨーロッパ以外からの世界チャンピオンの誕生であった。世界選手権とオリンピックを通じて,男女シングルスのチャンピオンはアジアとヨーロッパからした出ていない。唯一の例外が1936年(プラハ)と1937年(バーデン・バイ・ウィーン)の大会でのアーロンズ(アメリカ)だけである。アジアからは男子では日本と中国(ダブルスも含めると台湾,オリンピックでは韓国),女子では日本,中国,北朝鮮,韓国からしか出ていない。
いま卓球の裾野は広がり,南北アメリカ,東南アジア,中東,アフリカでも強化が進み,有望選手も出てきている。荻村が蒔いた種が開花しつつあるといっていい。荻村の選手としての活躍と卓球のメジャー化への尽力を記録した本書は,荻村の夢を語ることで卓球の魅力を引き出している。