602東アジア最古の縄文期埋葬犬の骨不明と「失敗史」(七論)

慶應義塾大学愛媛県久万高原町が報道発表した。関連エントリーで何度か触れたあの縄文期埋葬犬の骨の所在がわかり,放射線炭素年代測定によって国内最古の埋葬犬骨であると結論づけたとのことだ(以下の引用はプレスリリースから→http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2012/kr7a4300000b4umr-att/121101_1.pdf)。

慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室では,1962年に愛媛県久万高原町(旧美川村)上黒岩岩陰遺跡から発掘された二体分の犬骨の放射線炭素年代の測定に成功し,この犬骨が縄文時代早期末から前期初頭に遡る国内最古の埋葬犬骨であると結論づけました。
1962年に愛媛県久万高原町(旧美川村)上黒岩岩陰遺跡から発掘された二体分の犬骨は,日本最古の埋葬犬骨と言われながら,調査終了後所在が不明となっていました。慶應義塾大学民族学考古学研究室では,2011年の春,三田キャンパスの考古資料収蔵庫の一角よりそれと思われる二体分の犬骨を発見しました。その後,東京大学北海道大学聖マリアンナ医科大学の研究者らの協力を得て慎重に調査・研究を進めた結果,それらが上黒岩岩陰遺跡から出土した犬骨であることがわかりました。

日本最古か東アジア最古かは別にして考古学上の大きな発見であることは間違いないのだろうが,発見してから半世紀経って「調査終了後所在が不明」とし,「考古資料収蔵庫の一角よりそれと思われる二体分の犬骨を発見」したことの反省について一言もないのはどうしてだろうか。半世紀,50年も放置しておいて「国内最古の埋葬犬骨」はないだろう。
調査・研究成果は今日開かれた第66回日本人類学会大会のシンポジウム「上黒岩岩陰出土犬骨の研究」で報告されたようだ(プログラム・抄録集→http://www.gakkai.ne.jp/anthropology/66_annual_meeting/program.pdf)。

我が国最古の埋葬犬は愛媛県上黒岩岩陰から出土した二体であるといわれている。しかしながら,1962年に発掘されたそれらについては,これまで詳細な報告がなされることなく,半世紀あまり行方も知れぬままとなっていた。慶應義塾では年来この資料の探索を続けた結果,昨年ようやくそれと推定し得る資料を発見するに至り,目下,複数の機関に年代測定を依頼するとともに,形態的特徴の観察・把握に努めている。加えて資料の一部からは,既に DNA や安定同位体を抽出することにも成功し,同埋葬犬の遺伝的系統,食性などについても議論できる見通しも得た。そこで,本シンポジウムでは,それらの観察・分析結果を順次報告,これまでの列島ひいては東アジアの古代家犬の研究成果も踏まえた上で,上黒岩遺跡出土埋葬犬骨の資料価値を評価することを試みたい。

「これまで詳細な報告がなされることなく,半世紀あまり行方も知れぬままとなっていた」とは他人事すぎはしないか。「半世紀あまり行方も知れぬままとなっていた」ことへの言及なくしては調査・研究成果も色褪せてしまう。