書誌情報:新潮文庫(は-63-2),510頁,本体価格800円,2018年7月1日発行
ピカソが「ゲルニカ」に託した思いを主人公のキュレーター・八神瑤子にこう語らせている。「芸術は,飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ」(448ページ)。
スペイン内戦中の1937年4月26日,バスク地方の小都市ゲルニカをフランコ将軍率いる反乱軍を支援していたナチス・ドイツの航空部隊が空爆した。その惨状を知ったピカソが共和国支援のために絵筆を取ったのが「ゲルニカ」である。1937年パリ万博スペイン館に展示するために制作された。パリ万博中は共和国担当者(アラゴンなど)から展示取りやめも示唆されるほど物議を醸した作品である。パリ万博終了後は,ナチスによる破壊を危惧し,ヨーロッパ各地での巡回と北米での巡回,MoMAでの展示を経て,スペインに民主主義が戻るまでアメリカにとどめてほしいというピカソの意向によって,42年間MoMAで展示され続けることになった。スペインに返還されたのは1981年である。プラド美術館のちにソフィア王妃芸術センター(本書ではレイナ・ソフィア芸術センター)に所蔵・展示されている。
国連安保理会議場のロビーにはピカソ監修のタペストリーが展示されている(ほかにフランス・ウンターリンデン美術館と群馬県立近代美術館。会議場内の壁画はノルウェーのペール・クロフの作品である)。そのタペストリーが,9.11のアメリカ同時多発テロを受けて,アメリカは「テロとの戦い」のためと称してイラク攻撃を開始すべく,パウエル国務長官が国連安保理のロビーで記者会見を開く(本書ではパワー国務長官)。「ゲルニカ」の食べストリーが掛かっているはずが,暗幕で隠されていた。
1937年から1945年までの「ゲルニカ」制作からMoMAでの展示・収蔵と2003年のMoMAでの「ピカソの戦争」企画の同時進行で,ゲルニカ空爆とイラク攻撃の非人道性を暴く。前者を実在の女性写真家ドラ・マール,後者を著者の分身・瑤子の「ゲルニカ」展示の格闘から物語を紡ぐ。門外不出の「ゲルニカ」の展示は実現するのか。
「バスク祖国と自由」のメンバー・マイテが持っていた一羽の白い鳩の絵はピカソとの意外な接点があった・・・。
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