書誌情報:芙蓉書房出版,426頁,本体価格12,000円,2022年6月24日発行
戦前の特別高等警察(特高)は敗戦後GHQの人権指令によって治安維持法とともに廃止されたはずである。しかし,内務省は警保局に公安課,各府県には公安警察を設置し,内務省解体後もそのまま引き継がれ,1952年には公安調査庁が設置される。
ところがである。著者によれば,戦前の特高関係者の一部は公職追放されたものの多くは追放を免れ戦後の警察,公安に「転職」した。同時に公安だけでなく,「近年技能実習生や「不法滞在外国人」の処分をめぐって大きな問題となった出入国管理を担当する分野などにも,影響を及ぼしているといわれる」(「あとがき」425頁)。また,著者はメリーランド州立大学ブランゲ文庫調査の際に,自分の名前を公安調査庁の刊行物の中に発見し,本書刊行のひとつの動機と記している。
ほかでもなく,特高が集積した「要視察人名簿」にはわれわれも知っている有名人も含まれている。多くは無名の,市井の人びとであり,「大正・昭和初年という時代を,精一杯生きた多くの人々の記録ともいえる名簿」(「はじめに」8頁)である。
解説部分(要視察人制度の仕組みと変遷,要視察人名簿の検討,さらに米国議会図書館東洋部日本課の書架にあった要視察人名簿の紹介)と名簿(本邦社会主義者名簿,岩手県特別要視察人名簿,要視察人名簿[米国議会図書館蔵])からなる大著である。
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