1010古川勝三著『[改訂版]台湾を愛した日本人――土木技師 八田與一の生涯――』

書誌情報:創風社出版,349頁,本体価格2,200円,2009年4月30日発行

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八田與一の存在を世に知らしめたのは同名の台湾での出版(1983年),旧版(1989年)によるといっても過言ではない。司馬遼太郎著『台湾紀行――街道をゆく40――』,台湾の教科書『認識台湾』,烏山頭ダムに八田技師記念室開館,旧版の中国語版,八田を顕彰する常設展示コーナー開設(出身地金沢市),産経新聞「凜として」に9回シリーズ掲載,ハイビジョンビデオ「民衆のために生きた土木技術者たち」,八田與一展(金沢ふるさと偉人館),陳水扁台湾総統による八田への「嘉南平原水利の父」褒賞,演劇「台湾大地を潤した男」講演,アニメ映画「パッテンライ!!」制作(以上「あとがき」から)と著者の八田與一評伝の功績は大きい。映画『KANO』にも大沢たかおの大甲帽を被る八田與一と烏山頭の放水シーンが印象的に描かれていた――史実からすれば,KANO甲子園出場と通水式とでは一年のズレがあるとはいえ――。
台湾にただ一つだけ残されている日本人の銅像が八田による大治水事業で出現した珊瑚潭を見下ろしている。その銅像の台座には「嘉南大圳(たいしゅう)設計者 八田與一氏像」とある。八田の命日(南方開発派遣要員として乗り込んだ大洋丸が魚雷攻撃で沈没した1942年5月8日)には八田夫妻の墓前で毎年法要がおこなわれている。
ひとりの日本人技師の名が日本の食糧供給地としての耕地開発の位置づけであったであろう嘉南大圳に残っている意味を考えさせられた。東洋一のダムと水路についても詳しい。
地方出版社の挑戦でもあった。