1008伊藤潔著『台湾――四百年の歴史と展望――』

書誌情報:中公新書(1144),252頁,本体価格700円,1993年8月25日発行

台湾―四百年の歴史と展望 (中公新書)

台湾―四百年の歴史と展望 (中公新書)

  • 作者:潔, 伊藤
  • 発売日: 1993/08/25
  • メディア: 新書

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本書刊行後すでに20年経った。李登輝が第8期総統就任後までの台湾の政治と経済を中心にまとめた本書は台湾本として輝きを保っている。日本統治下の台湾・宜蘭県に生まれ,国民党の強権政治下で教育を受けた台湾生まれの日本人である著者の思いが詰まった一書である。
日本の台湾領有が決まる直前,「台湾民主国独立宣言」(1895年5月23日)が発せられアジア最初の共和国が誕生したこと,第一次世界大戦後にかなりの数の台湾人留学生が日本で高等教育を受けたこと,ノーベル化学賞受賞者(李遠哲)がいること,17世紀前半以降の台湾の歴史は外来政権による抑圧と住民の抵抗のそれであることなど台湾の今に繋がる歴史が活写されている。
あわせて日本植民地化の教育における「明」と二・二八事件を嚆矢とする国民党の圧政における「暗」が対照的である。台湾「民主化」に現れては消えるアメリカの存在も不気味である。
国民党政権時には台湾人が自国の歴史を学ぶことは許されなかった。であるならば,われわれ日本人も本書を繙いて日本統治の台湾史を再考することも必要である。台湾を日本「帝国」主義の犠牲として描くことも,台湾近代化に日本統治が果たした役割を過大に評価することもともに誤りであろうからである。
著者は今後の台湾を考える上で重要なこととして,中国との関係の処理,国際社会での孤立の打開,国民党の「一党独大」と「党営企業」の解消,民主化に抵抗する国民党保守派への対応,産業動力の確保と公害問題の調和をあげていた。2006年に逝去した著者の見通しは共有できるものだ。