1696鷲田清一著『京都の平熱——哲学者の都市案内——』

書誌情報:講談社学術文庫(2167),274頁,本体価格980円,2013年4月10日発行

単行本刊行(2007年3月)以来16年,本文庫になって10年経つ。いわゆる京都本の一書だが,京都生まれ京都育ちの著者が一度京都を外から見て京都を捉え直す京都論。市バス206番の路線を京都駅から西回りに寄り道して辿る「水平構造としての京都」(佐々木幹郎の「解説」274ページ)が特徴だ。
歴史都市京都だが,「京都の住民ほど歴史意識が希薄な人種は珍しい」(47ページ)が,町内に最低一軒仕出し屋や菓子屋があることをもって京都には「自治の文化,社交の文化」(182ページ)がある。それでいて,「女装すれすれのザ・タイガースとか,ナンセンス系のザ・フォーク・クルセダーズや後のあのねのねとか」のように「怪しげなアングラ文化やヒッピー文化の聖地」(145ページ)でもある。
さらに,著者が聞いたという,舞妓さんは五島列島出身の人が多い,ということから,舞妓さんの衣裳は「足し算の極み」,修行僧の格好は「引き算の極み」(148−9ページ)と独自の被服論を展開している。よく「お」という丁寧語と「さん」という尊敬語をつけるという京都弁の特徴や千本北大路に日本初の「盲唖院」の開学(1878年)を確認している。
鯖寿司「いづう」や一澤帆布など評者にも馴染みがある店がある一方で,名前を変えた大学や無くなってしまった中華料理店やいくつかの「さてん」(喫茶店)がある。
かつて愛読した杉本秀太郎著森裕貴撮影『新京都案内——都鄙問答——(岩波グラフィックス16)』(1983年9月発行,[ASIN:B000J7BBB6])を引っ張り出していた。